【書評】王とサーカス

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「このミステリーがすごい! 2016年版」国内編で1位に輝いていた本作ですが、著者の米澤穂信さんは去年も「満願」という作品にて1位を取っていたようです。2連覇です。ということを知ったのは読んだあとだったので、同じ人が書いたとは当初思っていませんでした。

 

あらすじ

新聞社を退職し、フリージャーナリストとして働き始めた主人公の刀洗万智は、月刊誌の観光特集の仕事を引き受けてネパールの首都であるカトマンズにやってきました。新聞社とは異なるタイムスケジュールの中で、現地の子供や、同じ宿に宿泊している客たちと交流し、のどかな時間を過ごしていきます。

そんな中、王宮で国王を含む王族多数が殺害されるという大事件が発生します。大事件の最前線にいることを察知した刀洗は、当初の予定を変更して早速取材を開始することにします。

王室と政府による情報統制によって、市民にも満足に情報が伝わらない状況の中で取材を行いますが、得られるものは少なく、取材は難航します。原稿提出の締め切りが迫る中、事件を知る重要な人物が刀洗に会ってくれることになりました。

 

ネパールの空気感

本書は「名前だけは知っている」程度のネパールという国が舞台となっています。普段外国が舞台になっている小説は、風景がイメージしずらいため積極的に読まないのですが、本書は乾燥したネパールの雰囲気や、市街地の混雑ぶりがよく伝わってきます。

そんな中発生した王宮殺人事件ですが、これは実際にあった出来事のようです。事件に関する矛盾や不自然な点も多く、政府の対応も十分ではなかったため、住民の不安をあおり、現在も真相は不明となっています。

 

成長ミステリー

そんな中、事件当初の状況や、現時点で報道されている内容から、主人公の刀洗はこの事件の取材を試みました。現地で知り合ったガイドや、同じ宿に入居している旅行客(日本人もいる)の協力(助言)もあって、少しずつ取材は進んでいきます。

ある日、事件当時王宮にいたという重要人物と会えることになります。刀洗は集合場所でその人物と出会いますが、そこで今後のジャーナリスト人生を左右する話を聞かされ、「報道する」というこの是非について悩むようになります。

 

ミステリーもあるよ

「このミステリーがすごい!」で1位を獲得しているということもあり、謎解き要素も満載ではあるのですが、本書で語られているテーマは「自分が良かれと思ってやったことが、アカの他人である誰かにとってはよくないことである。しかし、自分の信念や考え方に基づいて、誰かが傷つく選択肢を選ばざるを得ないことがある。」という点だと思います。

学校や仕事でも、このような矛盾は人生の至る所に潜んでいますが、本書の主人公である刀洗は、それらの問題をどのように乗り越えていったのか。詳しくは本書をご覧ください。

 

ちなみに、「満願」は短編集です。サクサク読めるのでおすすめ。

 


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